漆黒の黒般若
「坂下…」


うつむく楠葉は少しビクッと肩を揺らす


「ごめんなさい…」


それは小さくか細い声だった


「何故、謝るんだ?あんたは何も悪くなんかない。むしろ謝らなくてはならないのは俺のほうだ…」


先程までとても会いたかったはずなのにいざ目の前にしてしまうと何も言葉が出てこない


そんな楠葉をよそに斎藤は続ける


「今回のことを俺は間違っているとは思わない。これは会津からの命であったし、なにより芹沢さんは新撰組に甚大な被害をもたらしていた。だからこの計画の遂行はやむをえなかった。しかし結果的にはあんたを苦しませてしまったから成功とは言えんがな…」


そう話す斎藤さんはうっすらと笑みを浮かべながら困ったように眉を下げる


「今まで隊務と人の感情など無関係だと思っていた。しかし、あんたのせいでその考えも覆りそうだな…」

お梅さんと芹沢さんは殺されてしまった


それは許しがたいことでお梅さんの幸せを奪った彼らは憎い


しかし彼らも大切なものを守ったのだ



2つの幸せの狭間に楠葉はどまどった



そんな楠葉に誰かが声をかける



「楠葉君。探したよ…、少しいいかね?」



「近藤さん」


振り向くとそこにはいつもとは違い、哀しげに笑う近藤さんが立っていた


「斎藤君も一緒に来てくれ」


「はい」


こうして2人は言われるがまま近藤さんの部屋へと向かった


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