漆黒の黒般若
不思議と痛みは感じなかった
楠葉を抱きしめた時
この小さな幼なじみをもう守ってやることが出来ないのをとても哀しく思った
すべてがスローモーションになり
俺はゆっくり、ゆっくり
地面に引き寄せられていった
楠葉はギュッとつぶった目を恐る恐る開くとなにが起こったのか理解できない様子だった
しかしその目に俺の姿が映ると目を見開いてしゃがみこんだ
「……祐」
つぶやいた唇はさっきの身体のように小刻みに震えている
「祐…、どうして…」
どうしてこんなところにいるの?
どうして急に出てきたの?
どうしてあたしを庇ったの?
彼女の“どうして”にはたくさんの疑問が含まれていた
「どう、してって…、俺は、楠葉を、守るって…、うぅ。約束…しただろ?」
刺されて苦しいせいか上手く話すことが出来ない
しかし今にも泣き出しそうな楠葉の顔を見ていたら話さなくてはいけない気がした
俺の前で泣くまいと唇をぐっと結んで涙をこらえている