漆黒の黒般若
井戸から汲んできた水を桶に入れると楠葉はおそるおそる足を入れる

ひんやりとした水が楠葉の体温を下げてくれた


「少しはましになったか?」


「はい、とても」


楽しそうにはしゃぐ楠葉の隣に座った斎藤はうちわであおぎながら言った



「こんな暑さで悶えてるようじゃ葉月ともなるとあんたは死んでしまうかもな」


そう言って笑う斎藤さんはうちわでこちらに風を送ってくれる


自分を扇ぐのをやめた斎藤さんの顔に落ちた髪を見て楠葉は首を傾げる



「斎藤さん、髪のびましたね?」


楠葉に言われて気づいたらしく右目にちらちらかかる前髪を持ち上げる


「確かに、最近邪魔だと思っていたんだ。髪結いに切ってもらうのも面倒だからあんたが切ってくれ」



「えっ?あたしがですか」

「あぁ、これも花嫁修行だ」


「あの、あたしまだお嫁には行かないので…」


「そうか?まぁあんたのような子供にまだ嫁の貰い手はつかないだろうけどな」

「あたし子供じゃないですよ?!」



「いや、あんたは中身も体もまだまだ子供だ」


斎藤はそういって楠葉の膨らむ頬をつつく


実際、ぷはっ
といいながら怒る楠葉を嫁にだす気はさらさらなかった


< 226 / 393 >

この作品をシェア

pagetop