漆黒の黒般若
「あの、斎藤さんは大事な人っていないんですか?」

「大事な人…。俺にとって大事なのはこの新撰組だ」


「じゃあ、斎藤さんは大切なものを失ったことはないんですか…?」



「なんだ、今日は質問攻めだな」


そう言って布団に入る斎藤さんは何かを思い出すように目をつむると話を続ける


「俺はここへ来る前、人を殺した。向こうが始めに喧嘩を吹っ掛けてきて若かった俺は必死に刀を受け止めたんだ。しかし小競り合いの結果俺はその相手を切りつけてしまった

そうして俺は追われる身に」



「えっ?で、でもそれは斎藤さんが身を守るためにやったことなのにどうして…?!」


驚く楠葉はまるで自分のことのように怒っている


斎藤はそんな楠葉の方に向き直ると怒る彼女を見て笑う


「それは仕方のないことなのだ。その頃若かった俺は納得がいかなくて話をつけに行こうと思った。しかし父がそうさせなかった。

“生きるんだ”

そう言った父は俺を知り合いの元に預けて自分が責任をとったんだ


結局父がどうなったかは知らない

誰に聞いても答えてくれなかった


そうしてやつれていた俺がたどり着いた居場所が新撰組だったってわけだな

今はここが俺の居場所だ
あんた同様、俺にも居場所がここしかないのだ


俺は人に頼ることは弱いことだとは思わない
頼り、頼られるのが人間の性なのだろうな

だからここが俺にとって大切な物だし守るべき物なんだ


失わないようにしっかり守りたい

ただ、それだけだ」



話し終えた斎藤さんはなんだかとてもすっきりしたようだった

そんな斎藤の話を聞いて楠葉も決心したように話す

「裕が生きてるかはわかりません…。もしかしたらやっぱり死んじゃってるのかも…。でも、もし生きてるのなら今度こそあたしも大切なものを守りたい…。

でも、斎藤さんがいった通りあたし1人では裕を探すことはできません

なので…、
これからも裕を探してもらってもいいでしょうか


お願いしますっ…」


布団から起き上がった楠葉は頭を下げる


大切なものを守りたい

もう何も失いたくない

そのためにはまず、裕をみつけなくちゃ

落ち込んでる場合じゃないんだ

あたしがしっかりしないと

裕を探すこと


それはとても容易ではない

裕が生きてる確信もない


この半年ずっと悩んできた

でも、斎藤さんに言われて気がついたんだ


“人に頼ることは弱いことだとは思わない”


たまには人に頼ることも大切なのだと



「あんたは頑固だからな…、こちらから言わないと言いたいことも言えないだろう?あんまり我慢するんじゃないぞ」


そう言って優しく笑う斎藤さんを見て少し泣いてしまったのは気づかれてしまっていただろうか…?



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