漆黒の黒般若
パチパチパチ…



音のする方を振り向くと残った男があたしに向かって手を叩いていた





「いや、驚いたよ。君のようなおなごが長州の浪士を倒しちゃうなんてね、お前名はなんと言う?何者だ?」



こいつは恐くないのだろうか…
仲間がよく分からない奴に切り殺され確実に次は自分の番だろう
それなのに相手に拍手などしたかと思えば笑っている。この余裕は何処からきているの




理性を失っていた楠葉だったがこの男のことは正直怖いと思った



楠葉の祖父は剣道の達人だった。その為楠葉も影響を受け、小さな頃から幼なじみの祐をつれよく剣道の稽古に祖父母の家を訪ねていた


しかし稽古をするのは楠葉だけで、祐は専ら祖父に怒られた楠葉を慰める係りであった



それもその筈、祖父が楠葉に行う稽古は大人でも辛いものであって小さな楠葉にはこなすのがやっとのはず

しかしそれにも理由があり
楠葉は素人の祐がみてもわかるほどの“天才”であった


そんな楠葉に期待していた祖父はつい稽古も厳しくなってしまったのであった




いつしか楠葉も大きくなり剣道の腕も祖父に匹敵するものとなっていたのだが
祐の係りもそのまま引き継がれ彼女はすっかり泣き虫になってしまった




しかし祐がもういない今、自分を守るのは自分自身である楠葉はもう泣いていなかった


手には刀を持ち
顔は強ばっている



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