漆黒の黒般若
「斎藤…さん…」


知られてしまった

彼には知られたくなかった
あたしは汚れてる

斎藤さんはあたしの事を嫌いになっただろう

仇に犯された女なんて

もう…
もう……


目の前まで来た斎藤さんの表情が見れない


怖い…


怖い

嫌われるのが怖い…


彼は今どんな顔であたしを見ているのだろうか…?



「斎藤さん…あ、あたし…、ごめんなさ…ひゃっ」



顔があげられずにうつむいたままの楠葉を斎藤が抱きしめた



斎藤さんに抱きしめられると安心する


でもそれと同時に胸が締め付けられる衝動にかられるのだ



いつも斎藤さんに甘えてしまっていたけど今日こそ言わなきゃ


あたしのような子を、汚れているあたしを斎藤さんは大事といってくれた


でも、真実を知ってもなおあたしの事を大事なんて言ってくれる訳ない



ずっと嫌われるのが怖かった


そんなあたしの我が儘で斎藤さんを騙していたんだ



だから


しっかり言わなきゃ…



「斎藤さん…、離してくださいっ…。あたしは汚れてるんです。斎藤さんが思ってるような人じゃないんです…。だから離してくださ…」



泣きながら斎藤さんの体を押すが逆にさっきよりも強く抱きしめられる



「斎藤…さんっ。そんなことしたら…、あたし……また斎藤さんに甘えちゃう」

「甘えたっていいじゃないか!今まで通り甘えたって…」



「だめです!あたしは…、図々しかったんです。汚れてることを隠してずっと斎藤さんの優しさに甘えてしまって…。ずっと斎藤さんのこと騙してたんです!だからそのことを知られたからにはもう甘えることはできません…」



「汚れだと?あんたは汚れてなんかいない」



「そんなことないです…!だって、あたしは吉田に……」


そこまで言った楠葉の目からは大粒の涙が溢れでる


「汚れなど、綺麗にすればいいことだ…」


そういった斎藤さんの顔が楠葉の顔に覆い被さる


最初は触れるだけのものだったが酸素を求め開いた口の隙間から舌が滑り込む



「…ん、ぅっ…ん…」


長い口づけが終わると腰が抜けた楠葉は倒れ込んでしまう


それを支えると楠葉を座らせ優しく問いかける



「まだ、汚れてるように思うか…?」


そんな斎藤の質問に楠葉は首をふる


「じゃあ、あんたはもう汚れてなんかいない。また元のように俺の小姓でいてくれるか…?」


斎藤さんのその言い方がまるでプロポーズのようでついつい顔に熱が集まる



「はい。喜んで」



< 250 / 393 >

この作品をシェア

pagetop