漆黒の黒般若
「沖田さん…、ご飯出来ましたよ?」



のそのそ入っていくと沖田さんはあたしの言いつけ通り布団のなかでにこにことあたしを待っていてくれた


「出来ましたよ」



布団から顔だけだした沖田さんがまるで子供のように見えて、あたしはつい笑ってしまう



「起き上がれますか?」



「うん。大丈夫」



手を貸してあげながら上半身だけ起き上がらせると持ってきたお粥を差し出す


しかし沖田さんは一瞬嫌そうな顔をするとこっちに顔を近づけてくる



「わぁ、なんですか?!」


「あーーん」



「は、はい?」



「だからぁ、あーん」



「へっ?」



「食べさせてよぉ。楠葉ちゃん。僕病人なんだけどぉ…」



「で、でも…。恥ずかしくないですか?いい大人があーんだなんて…」




「誰も見てないんだからいいでしょ?」



「はぁ…」



仕方がなくわがままをいう沖田さんの願いを聞き入れてお粥を彼の口元に運んでいく



「美味しいですか?」



「うん。楠葉ちゃんのお粥美味しいよ。じゃあ次は口うつしで…!」



「調子に乗らないでください!」



「けちー」


こんなやり取りが続きながらも沖田さんは玉子粥を完食してくれた



「美味しかったよ。ありがとう。でも今度はもっと甘いものが食べたいなー。夕飯はみたらし団子がいい」


「なにいってるんですか!沖田さんは病人なんですよ。しかもまだ目が覚めたばかりで…。みたらし団子はなおってからですよ」



「うーん…。相変わらずけちだなぁ、楠葉ちゃんは…。僕の病が一生治らないかもしれないのに…」



「えっ…?」



うつ向き加減で言った沖田さんの顔には自傷的な笑みが浮かんでいる



「僕の病はなんだったの…?」



沖田さんの言葉にあたしは固まってしまった


にこにこと笑っているが目だけは真剣そのものだ



どうしよう…


あたしが病の名を告げたら彼はどんな顔をするだろう


絶望?
落胆?


死病と恐れられるそれは今の沖田さんにとってどれだけの負担になるのだろう…


そんな事、あたしの口から言ってもいいのかな…?



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