漆黒の黒般若
「沖田さんの病は……

ろ、労咳です…」




このときテレビなどで病人に余命などを宣告する医者の気持ちがわかった気がした




少し時が止まったように思える



沖田さんはまだ心の準備ができてはいなかったんじゃないだろうか



泣き叫びたいくらい辛いのではないだろうか



やはり今は言うときではなかったのではないだろうか


頭に浮かぶのは後悔の念だけだ




「ふぅ…」



口を開いた沖田さんにビクッと体が反応する



「うーん…。まぁ僕血吐いたしね。重病だとは思ってたけどまさかあの死病と恐れられてる労咳なんて、僕もついてないなぁ」



病を知った沖田さんの表情は失望でも落胆でもなく、普段とかわらないにこにことしたものだった




「で、でも松本先生は治る可能性もたくさんあるって言ってて、だから沖田さんも…!」



涙を浮かべながら言う楠葉の頭に手が置かれる



その手はくしゃくしゃと髪をかきながら頭の上で揺れる



「僕の体のことは僕が一番よくわかってるんだ。助かるか助からないかは僕自身でわかるよ…。だから、今日はみたらし団子ね」



「そんな…、あたし沖田さんが居なくなるのなんて嫌です!だから…だからそんな事……言わないで…うぅ”…ずっ」



本当は沖田さんが泣きたいはずなのに
ずっといつも通り笑う沖田さんを見ていたあたしが泣いてしまう



そんなあたしを沖田さんは抱きしめてくれた



正座したままうつむいて肩を揺らすあたしを包み込む腕は前に添い寝したときより細くなった気がした


「君はいつも人のために泣くんだね…。僕は感謝してるよ、あんまり感情的になれないたちでね。君が僕の代わりに泣いてくれると嬉しいよ」



そう言った沖田さんの声は少し震えていた気がした


前に斎藤さんがいっていた

あたしと沖田さんは似ていると


今さらその意味がわかった気がした


彼も人のために生きている人なんだ


自分のために涙は流せない


自分を大切にできない人



だからその分あたしが彼を大切にしてあげよう



彼が壊れないように…


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