漆黒の黒般若
「じゃあ、一くん行こうか」


時間がやってきて総司は斎藤と共に平隊士達を連れて夜の見廻りに出掛けた





空のように薄くあおい浅黄色の羽織をはためかせ歩く姿は京でも“人切り集団”と恐れられていた



“新撰組が歩けば喧嘩がとまる”
そんなことを言われるほど新撰組は京の町にとってなくてはならないものとなり始めていた



“京の平和は新撰組が守っている”といっても過言ではなかった



そんな彼らにとって、黒般若のような存在は平和を害するものとして野放しにはできない存在だった



その日の巡回はいつもは遠慮がちな島原にまでおよんだのであった




「新撰組だぞっ…」

「本当だっ!こんなところまで何しにきたんだ」


「巡回中に遊廓か?」


「そういえば今日ここらに黒般若が出るらしいじゃないか!」



「本当かい、それは?!」

「たんなる噂だと思っていたが、新撰組が居るってことは噂は本当かっ!?」


「おーっおっかねぇ…、襲われる前にはぇーことこんなとこ、おさらばしようぜ!」



周りの男達は新撰組を見て口々に噂話をし始めた




「一くん、黒般若の前にあいつら斬っちゃう?」


笑いながら話す総司の顔はどす黒い笑顔が張り付いてる




「やめておけ…総司。また新撰組の評判が落ちる」


総司の肩を軽く叩きながら斎藤は言った


「へぇ、一くんも土方さんみたいな事言うんだね?評判なんて長州贔屓の京の人にしてみれば新撰組は何もしなくても悪いままだよ。今更評判なんて気にしてられないねぇ」




総司の言うことにも一理あるが、今優先するのは黒般若の暗殺の邪魔と彼の捕獲であってそこら辺の酔っ払いに付き合っている暇はない


斎藤はタメ息と共に、にこにこ笑う総司の袖口を掴み歩きだした



「一くん、まだ話終わってないんだけど…、もしあいつらがいつか新撰組や近藤さんを襲うようになったらどうするのさぁ。そうなる前に斬っちゃうのがいいと思うんだけどなぁ……?」


総司は未練がましく人差し指を尖らせた唇にあてて頬をぷぅっと膨らませていた


そんな姿に呆れながらも斎藤は先を急いだ








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