漆黒の黒般若
楠葉が倒したのはごみ箱であって



その倒れたごみ箱からは中のものが溢れ出ている




辺りに散らばる白い紙は赤く染まっていた


中には元々赤い紙だったのではないかと疑うほど染まり上がった物もある



「これは…血?」



それを見た途端楠葉の心臓は激しく動き出す



それは血を吐いたとき以来に見る病の爪痕だった



「また、血…吐いたのかな」


見開いた目を静かにつむり1つ深い呼吸をする


今の楠葉にはこれくらいしか自分を落ち着ける方法がなかった



先程よりゆっくりになった鼓動を確認すると散らばったごみを戻し、静かに部屋を出た


「まだ、まだ…」



廊下をひたすら歩く


1m…


10m……


20m………



ここまでくれば大丈夫だろう…



すたすたと歩いていた足がとまる


そしてその足元にはこらえていたものがポタポタと落ちていく



最近涙もろくなったと思う

「大丈夫…、沖田さんは必ず治るから……っ」



今はとにかくそう自分に言い聞かせるしかなかった



一番辛い彼を差し置いてあたしだけがいつもめそめそ泣いてたら駄目なんだ




しかし涙は当分止まることはなかった



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