漆黒の黒般若
「いただきます」



初めてだ


この屯所に来て斎藤さん以外の人とこうして一緒に食べるのは



山南さんと沖田さんに囲まれながらあたしは幸せそうにお米を口に運んだ



「楠葉ちゃん、よっぽどお腹空いてたんだね」


「へ?」


楠葉は総司のいってる意味がわからなくて小首をかしげる


「ついてますよ」


山南さんが微笑みながら頬を指差す


指差された方の頬を触るとなにかもっちりとした感触がある


その感触の正体が分かると楠葉の顔がぱっと色づいた


「はははっ、全く楠葉さんはおてんばなのかしたたかなのかわかりませんね」


恥ずかしさでうつ向く楠葉に山南さんが笑いかける



「え〜。僕はしたたかな人はあんまりタイプじゃな
いから楠葉ちゃん、ごはん粒付けたままでいいよ!」



「沖田さん!」



どっと笑いがおこる中楠葉はなんだか幸せだった



「今度はこうして土方君達も入れてたべたいですね」

山南さんがなんだか遠い目をしながら微笑んだ



「土方さん、ですか?」


“土方”という人物の名を聞いてあたしは少しうつむいた

それを見た総司は何かに気づいてにやっと笑うと楠葉に近づいていく

「楠葉ちゃんってさぁ、土方さんのこと嫌いでしょ?」



「そんなことないです!この屯所に嫌いな人なんていませんよ。むしろ嫌われているのはあたしの方だと思います…」



語尾がだんだんと小さくなりながら楠葉はそれを否定する


それを聞いていた沖田さんと山南さんはまたどっと笑いだした


「ないないないない!!ってかむしろ土方さん、楠葉ちゃんのことすきだよ。多分。あ、色恋の方じゃないよ?ただ、楠葉ちゃんのことは絶対に嫌いじゃないよ。ねぇ、山南さん」



話を振られた山南さんもにこにこしながら土方さんのことを話始める


「彼は、昔からそういうところがあるんですよ。頑固というか、意地っ張りというか…。でも言ってしまえば、楠葉さんも結構頑固ですよね。ある意味あなた達は似た者同士なのかもしれませんね」



「似た者同士…」


「まぁ、とにかく土方さんは楠葉ちゃんのこと嫌いじゃないから。心配しなくてもいいと思うよ?」



「はい」



土方さんは屯所に来てから恐いイメージしかない

隊士達からも“鬼の副長”と呼ばれていることも小十郎から聞いて知っていたし、いつもしかめっ面で歩いているため彼に近づいていくのは物好きの沖田さんくらいだった


しかし土方さんもよくよく考えればあたし達と同じ人間なのだ


そう考えると怖さも少し弱くなった気がする



< 319 / 393 >

この作品をシェア

pagetop