漆黒の黒般若
トンっと坂下を蔵の壁に押し付ける

このくらいすれば観念するだろう
そう思い彼女の反応を楽しんでいた


しかし急に坂下が目をつぶったのには度肝を抜かれた
手を握りしめ
頬を赤くしながら目をギュッと瞑った彼女に斎藤の心拍数は上がっていく


な、な、なんなんだ。こいつは…!

何処でこんな仕草を習ってきたんだ

っ!さてはあのお信という女だな…

全く、人の小姓に変なことを教えて…

いつか借りは返してやるからな

それにしてもこの事態をなんとか収集しなくては…


そう考え、ふと前を向き直すと坂下はまだ赤いかおで目を閉じている


仕方がない…


ここは、男としてしがない女子の願いを叶えてやろうじゃないか!


そう思い顔をゆっくり近づけていき、あと少しで唇が当たる距離で坂下が目を見開いた


おまけに間抜けに小さな悲鳴も聞こえてきた


そしてまたギュッと目をつぶる


こいつ、俺を誘った訳じゃないようだな…


目の前でタコのように口をつき出している自分の小姓が滑稽に見えてきて接吻はやめて少し離れながら様子をみることにした


すると、しばらくは目を必死に瞑っていた坂下だったが流石に変に思ったのだろう


目を開けて違う意味で顔を赤くした


「斎藤さん、からかったんですか?!」


そう言ってまたブツブツ怒りだした坂下だったがふと

「斎藤さんが本当に…」


こいつ俺が本当に接吻すると思っていたらしくまた表情が変わる


全く、いちいち忙しい娘だ

なんだか楠葉をからかうことが楽しくなってきた斎藤はまた理由をつけて楠葉に詰め寄る

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