漆黒の黒般若
「斎藤さん」



誰かに名前を呼ばれ振り向くと伊東さんだった



「すみません。急にお呼び立てしてしまって…」


「構わないが、何かご用ですか?」



「まぁ、あなたも私をよく思ってくれてないようですのね。仕方ないといったらそこまでですけどそれでも悲しいですわ」


伊東が何を言いたいのか分からずしばらく無言で話を聞いていた


しかし突然悲しそうにしていた顔に笑みが浮かんだ



「斎藤さんには確かお小姓さんがいましたよね?」


急に坂下の話題が出てきたことに驚いたが変に動揺するのもよくないと思い顔には出さないでいた


「それがなにか?」


「坂下…さん?って言ったかしら。彼女元気でいらっしゃる?」


不意をつく一言につい顔をしかめてしまう


「彼女?坂下は男ですが。あなたは何か勘違いをされているのではないですか?」


「まぁ、勘違いしているのは斎藤さんの方じゃなくて?坂下さんが男だと証明出来るんですか?」


何故か勝ち誇ったようにしている伊東に斎藤はイライラを覚えはじめた


「何故坂下のことを俺に話に来たかは知りませんが坂下は俺の小姓です。手出ししたら殺します」


「あら、怖いわね。でもこれだけは覚えておいてちょうだい。いつかあなたのそのエゴが仇となるわ」


「どういうことですか?」


「では、また」


最後にそれだけ言うと斎藤の言葉は無視し伊東は去っていった


「あいつは一体何を考えている?」


先ほど向けられた笑顔に何故か寒気を覚えた


< 367 / 393 >

この作品をシェア

pagetop