漆黒の黒般若
「何故お前と坂下が一緒にいたんだ?」


睨みはしていないが2人の間にはなにかはりつめたものがある


「何故って、斎藤隊長が楠葉を追い出したからですよ」


にこりと笑いながら楠葉の頭を撫でる小十郎に殺意がわく


「まぁ、いい。事情は坂下から聞く。坂下を起こしてくれ」


「事情なんて聞けないと思いますよ?楠葉かなり怒ってたし…」


「怒ってた…?何故?」


「あなた達って2人して鈍感ですよね…。相手のことちゃんと考えてるんだかわからなくなります」


「どういうことだ?何が言いたい?」


「まぁ、それはこちらの話です。とにかく斎藤隊長、これからはお客人によって会う場所を考えた方がいいでしょう。特に女の人と会う時は…」


楠に言われた言葉ではっとした斎藤は眉間にシワを寄せて楠葉を見た


「そんなことで…」


「あの、斎藤隊長。お言葉ですが“そんなこと”でも楠葉は心配で泣くんです。自分の小姓ならそのくらいわかってあげてないと駄目なんじゃないですか?」


楠に言われ坂下を見るとあどけない寝顔にはうっすらと泣いた跡が残っていた


「坂下は何て言っていた…?」


「そうですね…。ずっと強がってるようだったので少しかまをかけたら泣き出しました」


「かま?何と言ったんだ」

「斎藤隊長とあのお客人がいい仲なんじゃないのか?って…」


そう言って楠はおどけたように笑ったが斎藤は目を見開いた


「そんなことはない」


「わかってますよ。そんなことくらい」


少しムキになった斎藤をなだめるように眉を寄せながら笑うと楠はいきなり真剣な眼差しになる



「でも、楠葉はそういうとこ人より疎いんで。大切に扱ってくれないと取り上げちゃいますよ?」


「取り上げる?お前は何者だ?坂下のなんなんだ?」


楠の言動に斎藤は彼を睨み付ける


「さぁね。でも、楠葉に危害を加えるようなら容赦はしませんから。斎藤隊長」

「お前こそ。うちの小姓に手を出したら斬るからな」

そう言うと斎藤が楠の腕から楠葉を取り上げ、抱き抱えた


無言で立ち去ろうとする斎藤に楠が声をかけた


「あ、ついでに。楠葉に“もう会うな”とか言っても無駄ですよ?彼女にとって俺は必要な人物だから」


しかし振り替えることもなく斎藤は楠葉を抱えて部屋を後にした


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