漆黒の黒般若
「とりあえずなにか犯人に繋がることがないか調べようぜ」



…犯人。


そっか…
お父さんとお母さんは
殺されたんだった


殺された…
普通の事故や病気じゃない

誰かに
意図的に命を奪われた

忘れていた訳じゃないけどあたしにとっては目を背けたくなる事実だった


病院に刑事さん達が来たときも“吉田”ってやつのことや彼らが何かを探していたことなど話したが意識がもうろうとしていたこともあり、あまり犯人についての記憶はなかった



もう少し…

もう少し意識を保っていたら犯人をしっかり見れたかもしれない
1日も早く犯人が捕まるかもしれない


そんな考えが頭を過り
あたしは悔しさを噛み締めた


ぐっと無意識のうちに
力強く握りしめた手を
隣から優しく触れられる


祐は優しい
優しすぎるんだ



だからいつもあたしは彼に甘えてしまう

ふと隣を見上げれば祐が優しく笑っていた



「大丈夫?」


祐はもう一度あたしに尋ねた

今度はさっきよりも優しく首を傾げて心配したような顔で…



「本当は大丈夫じゃないかも」




やっぱり祐には甘えてしまう

つい本音が口からこぼれ落ちた


「無理しなくていいから、ゆっくり、ゆっくり受け入れてこ?」



祐は一言一言
ゆっくり言うと
またあたしの髪を
わしゃわしゃ撫でた




髪がボサボサになって怒るあたしとそれでも撫でるのを止めない彼




この時がとても幸せで
この先ずっとずっと続くと思ってた


これが祐の最後の笑い声だと知らずに






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