漆黒の黒般若
「土方さん、お呼びでしょうか…」


「あぁ、入れ」

「失礼します」


おずおずと入ってきたのは楠葉だ


「あの…、あたしに何かご用ですか?」

俺は斎藤に頼んで楠葉を呼んでいた

目の前で顔を青くする楠葉は蔵の一見以来俺を怖がっているのだろう

チラチラと目を合わせないようにこちらの様子をうかがってくる


「あぁ、話と言うのは今日近藤さん達がお前の歓迎会を開いてくれるそうだ」


「歓迎会?!」

うつ向いていた顔をあげて驚く楠葉に言葉を続ける


「あぁ、お前以外にも新しく加わった隊士が何人かいてな。加わらないのも変だろうからお前の歓迎会も兼ねて今日は宴会だそうだ」

「はぁ」

「そこでだなぁ、お前は一応男ということになっているがお前は女だ。普段は隊士との接触はなるべくないようにしているが今日は隊士達との距離が近くなる。しかもあいつらは酒が入るとやっかいだ。バレるリスクも高くなる、だからお前はしっかりその事を心得ておけ」


目をつり上げて話す土方さんに楠葉は怒られているのか心配されているのかよくわからない気持ちになったがとりあえずこの場を早く去りたい気持ちでいっぱいだった



「はい、わかりました」

またうつ向いてしまった楠葉を見て俺は心配になる


初めて会ったときは小娘のくせに生意気で

誰も寄せ付けないような態度とオーラに怒りを覚えた

蔵に閉じこめてしまってからやけに娘のことがきにかかり心配していた所に斎藤があいつを抱えてやって来た


斎藤を叱ったのは副長としての立場からしてのもので
その時は斎藤に心の中で感謝したものだ


あとから楠葉の事情を知り、顔にはださないもののかなりの驚きがあった


そして彼女を守ってやりたいと思った


それは彼女からしてみたら迷惑な話なのかもしれない

男所帯の中、娘1人では相当大変だろう

しかし楠葉を目の届くところに置いておかないとまた彼女が何かに傷つけられるかもしれない

そんな憶測だけの不安が頭をよぎった


こいつが安心して過ごせるようにはできないのだろうか…



うつ向く楠葉を見て俺は頭を悩ませた






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