漆黒の黒般若

「綺麗だ…」

「えっ？」

突然斎藤の口から出た言葉につい反応してしまう

「今宵の月は綺麗だ」

あぁ…
月ね。


軽く期待してしまった自分に失望してしまう



「本当ですね…」

月は未来と変わらない姿であたしたちを見下ろしている


しかしビル明かりやネオンのないこの時代の月は未来よりもはっきり見える気がする



「あんたは、総司に似ている…」

突然隣に座っていた斎藤さんが口を開く

「沖田さん、ですか？」


「ああ、あんたの俺達に向ける笑いは偽物だろ？総司も心からはなかなか笑わない。いつも笑っているのは自分を偽ってるからだ。


小さい頃に両親をなくして色々と大変だったんだろう
俺はそのときの総司をまだ知らないからどんなことが総司をそうしてしまったのかはわからないがあいつもそれなりに大変なんだ

あんたがどうして本当に笑わないのかはあんたにしかわからないだろう

しかし無理して笑うことはないんだと思う


あんたが本当に笑いたいときに笑えばいいんだ

さっきみたいに…

俺はさっきの笑顔の方が好きだ」


斎藤さんはこちらを向いて向かい合わせになるように座ると優しく頭を撫でてくれる


あたしが本当に笑いたいとき…


あたしはこの人たちを信じていいのかな


なかなか自分の気持ちに答えが出せないでいる楠葉の気持ちを察したかのように斎藤さんはふっと笑うとなにも言わずにまた月を眺め始める


斎藤さんの笑顔は儚げでつい横顔に見とれてしまった
ゆっくり
焦らないで


自分の気持ちに嘘をつくのはやめよう


斎藤のおかげで吹っ切れた楠葉だった