漆黒の黒般若
「楠葉、今日一緒に出掛けないか?」


斎藤の部屋にいた楠葉を訪ねた平助は暇そうにしている彼女を誘った


「えっ。本当に?あたしも行きたい。でも土方さんが許可してくれるかなぁ…」


正直
斎藤さんの小姓になったものの
斎藤さんは隊務や隊士達の稽古などで、なかなか部屋に帰ってこない

しかも仕事も任せてくれなくて

楠葉はかなり暇をもて余していた

そのためこの平助君の誘いはとても嬉しかった

しかし、その喜びもすぐにしぼんでしまう


土方さんが許してくれるはずないっ

うぅ…
行きたかったなぁ

あきらめムードが漂うなか
しかし次の瞬間、平助君が言った言葉に耳を疑った


「大丈夫。土方さんにはもう許可はもらってるから」

「本当にっ!わぁい、やったぁー。」


あきらめが大きかった分、行けることになった楠葉の喜びも大きかった


ぴょんぴょん
ジャンプしながら喜ぶ楠葉に平助は同じくらいに嬉しくなった


宴会の次の日からなぜか嘘笑いがなくなった彼女の顔には本当の笑顔が浮かんでいる


子童のように笑う楠葉に平助の鼓動は早くなっていった


「じゃ、じゃあ後でまた来るから準備しとけよな」

「うんっ」


耐えられなくなって平助はくるっと背をむけると
走って楠葉から離れたのだった


「楠葉の笑った顔めっちゃかわいいし、2人で出かけるとか俺の心臓大丈夫かなぁ」


ほっ、と楠葉から離れたことで気が抜けた平助は廊下の柱にもたれ掛かって呟く

頭を掻きながらさっきの楠葉を思い出すとまた顔が赤くなる


「どうしちゃったんだよ。俺…」

「それは恋だ!」

はっと気づいた時にはもう遅く
後ろから腕をガッとからめられる


「佐ノさん、新ぱっさん…。どこから聞いてたんだよ?」


呆れ顔で言う平助の顔はまだ赤い

「楠葉と廊下で話してるとこからだよ。やぁ、若い2人で、昼間から熱いねぇ」

にやにやしながら言う新ぱっさんは楽しそうだ

「でも、あんまり奥手だと気付かれねぇぞ」

2人は方を組ながら平助の恋?の相談に乗ってるつもりでいるみたいでわくわくしている


「この際2人で出掛けちゃえよ!」

「そうだぜ、俺らが上手くやってやるからよ」

「もう、誘ったよ!この後楠葉と町にいくんだ。佐ノさんも新ぱっさんも邪魔すんなよな…」


そう言ってわいわい騒ぐ2人のもとから去っていく


「まったく、新ぱっさんも佐ノさんも余計なお世話なんだよ…」

そういいながらもあの2人のことは嫌いになれない平助であった




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