漆黒の黒般若
あたしの質問は聞こえていないのかはたまた聞こえないフリをしているのか芹沢さんは答えてくれない


「あのっ…」


話し出したあたしを芹沢さんの目線が制する


こちらをジッと見ている目は座っているが意志がしっかりとしている目だ



「お前、吉田が憎いか?」

突然発せられた仇の名に楠葉の目は見開かれる


そんな彼女の反応に芹沢の頬は緩む


「なぜ、という顔だな。言っとくがこれは壬生浪士組のやつからは聞いてねぇぞ」


「なら何故っ…?」


この時代に来てから自分の事を話したのは近藤さん達だけだ


なのに何故?

他にあたしの事をしっている人が存在するのだろうか

困惑の色を浮かべる楠葉に芹沢は続ける


「吉田は必ず、そのうちお前のもとに現れる」


「吉田が…あたしのところに……」



今でも鮮明に覚えているあの日の記憶

裕が血を吹き倒れていく瞬間にあたしの人生は色を失った


目に写る物はすべてがモノクロで
感情のないあたしは黒い面を着けた殺人鬼と化していた


人を殺しても何も思わない
それはすべて吉田に仇を討つため

吉田を探し回ったこの1年
見つからない苛立ちから長州の浪士を見つけると辻斬りのようなこともしたことがある


それほどまでに待ち遠しい奴と戦う日はそう遠くないという事なのか?


「話はそれだけだ」


芹沢さんはそれだけ言うと部屋を出ていく


「ちょ、待ってください、芹沢さん。どうして吉田のことを知っているんですか!?あたしの前に現れるってどういう事ですか!?芹沢さん!」


あわてて引き留めるが芹沢さんは部屋に戻っては来なかった


沢山の疑問が頭の中で渦巻く


楠葉は部屋をあとにした


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