漆黒の黒般若
「では、俺達も部屋に戻るぞ」


“俺達”という言葉につい反応して頬に熱があつまる
今更ながら照れてしまう

さっきの斎藤さんかっこよかったな…

芹沢の刀にも動じずに立ちふさがる斎藤の事を思い出して少しぼーっとしていると楠葉の手を突然斎藤の手が包み込んだ



「ふえっ?!」

不意打ちを喰らった楠葉はつい変な声が出てしまう


なんだその声は
と鼻で笑う斎藤さんの手はしっかりとあたしの手を握って離さない


先程赤かった顔も今では赤みを更に増し茹で蛸のようになっているだろう


黙ってしまったあたしを心配してか斎藤さんはこちらに振り返える


赤い顔を見られたくなくてとっさに下を向いた


そんなあたしの行動に斎藤さんは立ち止まり手を握ったまま顔を覗き込んできた

「…っ!」


突然の斎藤さんの行動にあたしは戸惑いを隠せない


「やはり、何かされたのか?」

「ちがっ!」

また芹沢さんの話が出たのであわてて顔を上げると目の前には斎藤さんの顔がありでかかっていた言葉もつい引っ込んでしまった

斎藤さんは前からかっこいい顔だとは思っていたが近くで見ても端正な顔立ちが輝いている


キスしてしまいそうな距離にまた顔に熱が集中した


「…そ、そんなこと…、ないです…」


恥ずかしくてまたうつ向くあたしを斎藤さんは不思議そうに眺めている


勿論、手は繋いだままだ

「はぁ…
なんだか忙しい娘だ。しかし前より表情が出るようになってよかった。そっちの方が可愛らしいぞ」


最後の“可愛らしい”って言葉が赤い楠葉に拍車をかける


裕以外の男の人にこんな台詞を吐かれたことなどなかった

というより
裕にも可愛らしいなんて言われたことなどない

頭から湯気が出るんじゃないかと思うほど照れまくった楠葉に限界が近づいていた

「ほら、行くぞ」


そんなことお構いなしの斎藤はまた歩き出す

手を繋いだままのため立ち止まることも出来なくあたしは引っ張られるまま廊下を歩く



他人から見たら変な2人だろうが夜も遅いためか周りには人っ子1人いない


「ついたぞ」

いつのまにか斎藤さんの部屋の前まで来ていた

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