漆黒の黒般若
「ほら」

いつまでも立たないあたしに斎藤さんは手を差しのべてくれる


それに捕まって立ち上がると袴についた畳をはらう


あたしを立たせると斎藤さんは布団を敷き始めた


「あたしがやりますよっ」
一応立場は斎藤さんの小姓ということなので仕事をとられて焦る

「いや、布団くらいは自分で敷ける。それにあんたの小姓というのは名前だけのものであってここにおくための口実だ。だからあんたは自分のことだけやっていろ」


まるで突き放すような言い方に楠葉は肩を落とす


ここに来て1ヶ月半が過ぎ、自分なりに心を開き始めていた

なので何も役に立てないのは自分でも居心地が悪かった


あたしも何かこの人達の役にたちたい

前の楠葉には考えられないことだったが彼女の中で何かが変わろうとしていた



「あたしもう口実だけの小姓はやめます

ここに来てもう結構たちますし、助けてもらった皆さんにお礼もしたいんです。
だから…
あたし今日からはちゃんとした斎藤さんの小姓として働きます

迷惑…ですか…?」


斎藤さんの返事を緊張して待つ


迷惑だと言われるだろうか?

めんどくさい女だと思われているのだろうか?


頭の中はマイナスなことばかりが駆け巡る

その時うつむいていたあたしの視界に斎藤さんの着物が映った


なかなか帰ってこない返事に心配ばかりが募る


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