カリソメオトメ

10

 あたしの胸の中でアキラは眠ってしまった。当たり前かもしれない。何しろ昨日の夜からろくに寝ていないのだから。あたしは気持ちの昂ぶりのままに何度も何度もアキラを求めてしまい、そしてアキラはそれに応えてくれた。

 あたしはアキラの寝顔をじっと見詰める。なんて可愛い寝顔なんだろう。好きな男の寝顔なんだから、可愛く思えて当然なのかもしれないけれど、やっぱりいつもの無愛想な顔との落差は激しくて、それがそのままアキラの魅力になっていた。

 思っていた以上に睫毛が長い。二重の目と鷹鼻、顎の無精ひげ、頬が少しだけこけていて、唇は少し薄い。

 顔立ちだけを見たら、どう見ても可愛くは見えない。なのにどうして、こんなに可愛く見えてしまうのだろう。凄く不思議だ。

 今までひとりの男性の顔をこんなにじっくり見たことはなかった。付き合った男はいつもそういう馬鹿ばかりだったから、好きという感情よりもむしろ飾りとしての価値しか考えていなかったような気がする。外見が格好いいだけ、どう考えてもそんな男ばかりだった。だからアキラのことを言えない。あたしだって長続きなんてしたことないし、アキラに出逢った頃には男なんて金だけの存在で、うざったいだけだった。

 そういえばそんな男達の中で少しだけ違ったのは、あたしがパパと呼んでいた男だ。彼はあたしに、毎月おこずかいという名目の金を払いながら好きな時に抱いていた。

 でも他の男とは少しだけ違って、独り善がりな抱き方はあまりしなかった。どちらかというとあたしが感じるのが嬉しいらしくて、二時間近く続くセックスなのに、彼は一度か二度しか絶頂には達さない。その間にあたしは何度も何度も達するのだけど、そんなパパでもあたしを宝物のようには触れなかった。

 やっぱり、金で買える都合のいい女なのは仕方がないのかもしれない。

 あたしがウリを止めようとした時に、パパはしつこく何度もメールをしてきた。あたしは一方的に「もう会わない」とだけメールしていたのだけれど、パパは「おこずかいの額を倍に上げてもいいから」とメールしてきて、断るにのに随分と時間が掛かった。
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