カリソメオトメ
 アキラは別にお金に困っている訳じゃない。パパみたいな超がつく高給取りではないけど、普通に生活をして好きなものを買っているし、こう見えてちゃんと貯金もしているみたいだ。

 あたしはウリで楽に金を稼いでいたから、余計に金というものが穢く見えてしまう。だからお金で解決するというのが一番嫌いだ。

 もちろん、十六歳にもなっているのだから、金の重要さが分からないはずもない。あたしだってお金でしか解決できないことがあるのは知っている。
 でもだからこそ、何でもお金で解決して欲しくない。あたしに倍のおこずかいをくれてでもあたしをつなぎとめようとしたパパ。でもアキラに出逢ったあたしにとっては、倍の額をという考え方が何よりも嫌だった。

 アキラだってお金の存在を無視できるような世捨て人ではない。でもあたしとの触れ合いで、彼が金で解決しようとしたことなんて一度もない。

 あたしはどうしても、自分が穢いからこそ、相手に綺麗さを求めてしまうのかもしれない。でもそんな小さな拘りすら捨てて、どうでもいい男を好きになることなんてできない。

 突然、アキラの身体が大きく震えた。驚いてしまって彼の顔を覗き込むと、ぼうっと薄く目を開いてあたしを見詰めた。そしてあたしの存在を確認するかのように、胸に埋めた顔を、強く押し付けた。

 もう、どうしよう、本当に可愛い、どうしようもないくらいに可愛すぎる。心をくすぐられるような感覚。

 例えばパパと何かの間違いで結婚していたとしたら、あたしはお金には困らなかっただろうし、きっとそういう女として愛されはしただろう。
 でもあたしが幸せを感じることはなかっただろうと思う。欲しいものを好きなだけ買って、行きたいところに好きなだけ旅行に行って、やりたい放題に生きていたとしても、きっと幸せにはなれなかっただろう。

 あたしはアキラに出逢ったあの時に選んだのだと思う。これからの生き方と、心のありようと、アキラという男性を。

 アキラの色褪せた髪を撫ぜて、ただじっと彼の顔を見詰める。こんな穏やかな気持ちになるのは生まれて初めてだ。
 あたしの居場所はアキラの隣、アキラは今あたしの胸の中、つないだ手はもう二度と離さない。

 こうして、ずっと彼を見詰めていたい。それはあたしの小さな願いだ。
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