空を自由に飛ぶことができたら。

助けてください。

 目の前には、知らない男の人がいた。

 目はぎらぎらしていて、血走っている。

 優しい声はかけてくれるのだけれど、

 全く笑ってはいない。

 正直、とても怖かった。

 泣きたかった。

 お母さんの元へ駆け寄りたかった。

 でも。

 泣くと殺されるから。

 叫ぶと蹴られるから。

 殴られるから。

 泣かない。

 その男の人はわたしの長い髪に触れると、

 静かに撫でた。

 これからは、僕が君の親だよ。

 そう言うと、

 わたしは、ちゃんと言うしかなかった。

「よろしくお願いいたします、お父様。」

 この人はお父さんなんかじゃない。

 だけど、

 命がおしかった。

 この人は、何人目の雇い主だろうか。

 名前は、なんていうの?

 そう聞かれた。

「酒田千波です。」

 

 
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