スノー・センチメンタル
少年は私の声に反応してパチリと目を開いた。なんだ、生きていたのか。びっくりさせやがって、このクソガキが。内心では毒づきながらも、愛想笑いを浮かべて、

「大丈夫? 立てる?」

と、優しく声を掛けた。立つ鳥跡を濁さず、ですから。



「立てない」

言って少年はニヘッと笑う。嘘だ、絶対に嘘だ。どこをどう見たって健康そうじゃん、お前。



「ねぇ、お姉さんさぁ、今から行かなきゃなんないとこあるんだよね。という訳で急いでんだー、そこどいてくれない?」

世知辛い世の中の理不尽さや矛盾に疲れて、今正に、死後の世界へ旅立とうとしている訳だよ。君と遊んでいる暇はないのだ。


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