おじさんって言うな! 〜現役JKに恋した三十男の物語〜
「普通、お父さんって家にいて、仕事に行く時は“行って来ます”って言って出掛けて、“ただいま”って言って帰って来るのよね。私はそれを知らなくて、時々、大抵は夜だから、“こんばんは”って言って来る人なんだと思ってたの。可笑しいでしょ?」


 有希はそう言ってフッと笑ったが、俺は笑う気になどなれなかった。


「有希、それは……」


「そう。私の父親には別の家があったの。そこには本当の奥さんと、息子さんや娘さんがいるの。母はその人の愛人で、つまり私は私生児ってわけ。認知はしてもらってるらしいけど」


 なんて事だ。俺は何を言えばいいかわからず、言葉が出なかった。


「中学まで気付かなかったのよ、私。可笑しいでしょ?」


 また有希はそう言って笑おうとしたが、顔がひきつってうまく笑えないようだ。俺はそんな有希を見て、目頭が熱くなってしまった。


「私の名前は母がつけてくれたんだけど、いつも希望を持てるように、なんだって。自分は希望を捨てて、お酒に溺れてるくせに……」


「有希……」


 俺は涙を堪えきれなくなり、有希の肩に手を伸ばすと、彼女の華奢な体を抱き寄せた。


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