ピアノレッスン
「あー・・・伸也様ですね」
チラリと窓の外を覗くと、お兄ちゃんはまだ梨花さんと抱き合っていた。
「・・・・お嬢様」
その声に顔を上げると、隣にいた秋月の顔が思わぬ近さにあってドキッとした。
「・・お顔がずいぶん赤くなっておりますが」
私は何も言えずにただ秋月を見つめる。
すると、秋月の白いグローブをした指先がすっとこちらに伸びてきた。
その指先は触れるか触れないかくらい弱い力で頬を撫でる。
「・・っ」
思わず息を呑んでしまう。
「まだお子様なお嬢様には少し刺激が強かったようですね」
目の前の薄い唇が初めて、笑う。
「な、何を言ってるの。わ、私だってもう子供じゃないわ」
そう言い返してみたところで、近づいてくる秋月を突き飛ばす勇気もない。
「・・・膝が震えてらっしゃいます」
頬を掠めた指先がゆっくりと首筋をなぞり、鎖骨を撫でた。