ピアノレッスン
「だが・・・本当の息子のように育ててやれなくて済まなかった・・・」

そして、今度はお父さんが頭を下げる。

「そんな・・・!!私は学校にも通わせていただいた上に、このお屋敷にお仕えさせていただいたことだけでも・・・」

秋月はあくまでもお父さんのことを「旦那様」として話している。

本当の親子なのに、少しだけ悲しい気がするのは、私だけ・・・?

「イチ、そんなふうに言わないでくれ。お前は倫子の形見なんだ」

ああ・・・やっぱり・・・

お父さんは潤んだ瞳で秋月を見つめる。

「・・・お父さん・・・」

私がそうつぶやくと、お父さんは私のほうに視線を移した。

「亜澄、お前にも申し訳なかったね・・・」

そう言って、私の手を握った。

「すべては私のせいなんだ。許してくれ」

今度はお父さんが私に頭を下げる。

「ちょ、ちょっとやめてよ、お父さん」

ついに目尻から涙がこぼれおちて、お父さんは慌ててそれを手で拭った。

「・・・本当のことを言うとね、浩也は私の子ではないんだよ」

「え!?」

秋月のほうを見ると、どうやら秋月もそのことは知らなかったようだ。

「イチを引き取ったときに、玲子にイチのことがバレてしまってね・・・・浩也は玲子とその恋人の子なんだ」

お母さんの、恋人・・・・?
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