彼女志願!
ずるいよ、ずるい
この数ヶ月。
無休で働いていたらしい穂積さんは、パーティーが終わってからようやくお休みを取れるようになったとかで。
休みのたびに、基本家の中で図書館で借りた本を読むくらいしかしない私を、美術館や博物館、ギャラリーなんかに連れ出してくれた。
そして何度めかのデートの今日は、都内の美術館で開催されていた『19世紀の画家の世界展』だった。
お昼過ぎに迎えに来てもらって、三時間ほどかけてゆっくりと会場を見て回り、併設しているティールームでお茶を飲みながらおしゃべりをする。
「――ファムファタル……『宿命の女』は、宿命に翻弄される女性ではありません。男を翻弄し、時には破滅へと導く女性像です。確かに19世紀末『薄紫色の90年代』と呼ばれた時代、36歳のオスカー・ワイルドが『サロメ』を書き上げたのが大きなきっかけにはなったでしょうが、神代の時代から『宿命の女』は存在したのです。凛先生、それは誰だと思いますか?」
「えっと……」
少し考えて、口にする。
「イブ? 知恵の実をかじりタブーを犯した。アダムの運命を変えてしまった」
「そうですね。ですがイブを誘惑した蛇もまた『女』の顔を持っているんですよ」