彼女志願!
がっくりしながら打ち合わせ室を出たところで、たまたま通りすがった営業らしい社員さんに声を掛けられる。
「鴻上(こうがみ)先生、先月末の新刊、売上好調ですよ。もしかしたら重版かかるかもしれません」
「え、本当ですか?」
万年初版作家の私には、重版なんて夢のまた夢なんだけれど……。
先月の新刊は、穂積さんにかなりダメ出しをくらって、死ぬ気で書きあげた一冊だから、努力が結果に結びついたら、すごく嬉しい。
私は「鴻上凛(こうがみ・りん)」という名前で、ちょっとエッチな少女小説を書いている小説家。
ジャンルは王宮ファンタジー物から学園物まで、なんでもござれ。
ちなみに本名は櫻井萌(さくらいもえ)と言って、こっちのほうがよっぽど少女小説家のペンネームっぽいんだけど。