彼女志願!
「弁護士さん、なんかの間違いじゃないですか!?」
「いえ、この遺言書は正式な書類で、そもそも――」
「正式って、いや、そんな筈はない、当主がユズを――」
私が聞き取れたのはこのくらい。
あとはちょっとわかりづらい方言で言い合いになってる。
当主の采配を譲られた穂積さんよりも、ユズさんに遺産がわたることが、よっぽど衝撃的な内容だったらしい。
けれど当事者のユズさんは、隣で喜んでいるニーナも視界に入れず、怒号にも耳を貸さず、唇をぎゅっとかみしめ、かすかに顎をあげ宙をにらみつけている。
ユズさん……
もしかして泣いてる?
私は部外者で何がなんだかさっぱりだけど。
彼女がどうしてここまで島の人に責められなければいけないのか、黙ってみているのは辛かった。