彼女志願!
本当は、約束が「嘘」と言われたらもうどうしようもないけれど
穂積さんはそんな人じゃない。
嘘は言わない。
なにも知らない癖にって思われちゃうかもしれないけど……
穂積さんはそんなふうに人を振り回したりなんかしないって、私はこの四年の穂積さんの仕事ぶりから信じられると思っていた。
「――幸せな人ですね、凛先生は」
彼はふっと表情を緩めて、ドアを引く。
「どうぞお先に」
その声は多少皮肉っぽくもあったけれど、私に思慮深さが欠けているという意味の指摘とは違うような気がした。
「ありがとうございます。じゃあ」
引いてくれたドアの中に入り、後ろの穂積さんに会釈して、アキを探す。
数歩歩いた瞬間。
「――まいったな」
穂積さんが何かをささやいたような気がして、振り返ったけれど――。
彼はもう私の視界から外れ、中央テーブルに向かって歩いているところだった。