春の頃に思いだして。
妖魅縛師
「暇暮らし。よそを見れば忙しい。とてもとても、忙しい」


 
頷くように言って、女は独りごちる。


「ああ、退屈だ」


 
田舎というほどでもないが、さりとて都会とも言いがたい。

桜通りを着流しの背の高い女が歩いている。

いや、男か? どちらにせよ絶世の美貌。

風に吹かれ、とてもけだるそうに、襟足に手をやり、溜息をつく。

 
もはや歩くのさえ、億劫な作業であるかのように。


(とるに足らないことで、一生懸命になる輩の多いこと。暇暮らし? 結構な)




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