春の頃に思いだして。
はらりと舞い散る薄紅の、花――
「花、といえば昔は梅だったな。なんでこう、咲いては散るばかりが能みたいな桜が国花なんだ」
――梅の香や ふるさとゆきて なつかしき
――恋ぞわれもと 匂い立つらん
(失敗。恋なんてしたことない。姫に仕えた時によく代歌に使った白梅香も、それはゆかしと喜ばれたものよ)
「今はもう、昔、むかーしの、こと……さ」
だらりと手を伸ばし、片手でそれに触れる。
硬く、ごつごつしている。
見上げれば、雪のように降り注ぐ、花の夢。
年輪を重ねたその、幹にわずかもたれる。
反対の手には大徳利をぶら下げている。重たげだ――。