春の頃に思いだして。
――太い並木の古桜。何でも知ってるおじいさん。


(奇妙な高揚感を感じる――妖魅か?)


 
彼女は素早く視線を左右に走らせたが、この木のほかに、それらしいものが見つからなかったのだ。


「おや……」


 
妖魅ではなかったが、異様さの元はみつけた。

 
彼女はふと、思っていた。

 
これが今の自分に、なんの災厄をもたらすものか。

妖魅縛師として、どう働くか。

そもそもこれはなんだろう。強いのか? 弱いのか?

気配が全くしなかった。

背が高くて、大きくて。いうなれば花によりそう、黒い影。


(とるに足らない生き物がいた。生きているのか、いないのか。全く、禍々しい邪念を感じない)


通り過ぎる人の表情を見て、やっとわかる。これは生きてはいないのだと。

わからなければいけない。魑魅魍魎の類なれば。
 
臭気。異様な――気付かないはずは、ない。

< 3 / 21 >

この作品をシェア

pagetop