春の頃に思いだして。

(あれが、普通の生き物ならね――)


いかつい顔の獣特有のひげが、頬のけいれんと共に上へと持ちあがる。


(何を威嚇している?)

女は、だらりだらりと、近づいてゆく。

異臭は増すが、他に気付く者はない。通り過ぎるだけ。

彼女も妖魅なのだ。だが普通とは全く違う。

妖魅を手なづけ、最後はころすために生まれた。人外の化け物――。

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