春の頃に思いだして。
 
人通りの多い並木道で、なぜこれほどの臭気が、人々の意識に影響を及ぼさずにいられるのか。彼女は思った。


(ここだけ次元が他と違っている――)

「結界か……しかし、何のために?」


 
桜は散る。舞い散って目の前の光景を、覆ってしまう。


(何を……隠している!)


 
ああ……そうか。彼女は悟る。

 
かつ目してそれを見た。


(狼――何と美しい姿をしている? 何を守っている? 気が遠くなるような年月、この桜に何を見ていると……)


 
ふ、と自然、遠い目をした。


(わたしには、わからないものだ)

「とるに足らないのに、変なもんだと思うのよ」


 
後ろ頭をかいた。黒髪が悲鳴を上げる。

 
彼女はそっと腕組みをした。考え深げに。

そして、そろりと動きを開始した。


(どうも気になるしね――)
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