春の頃に思いだして。
死なない生き物はいない。不死の妖魅さえ、彼女の手にかかればすぐに死ぬ。

しかし、あれは妖魅でさえないのだ――。


(異国からの貴人の操るという、使い魔か――?)
 

それくらいの知識はある。あるのだが――今生では出会ったことすらない。なぜか、声をかけずにいられなかった。


「一匹狼君、どうしたの?」


『風花の季節……俺は、ここにいた……』


思ったよりはやく情報が入った。


(風花、ね……)

「狼の季節はまだ冬なのかえ? もう、春だというのに」

『娘、人間ではないな』

「……そりゃ、いろいろなもんにまみれて生きてりゃ、見破られて当然か……」

『何を言っている。ふるさとの匂いがする。それだけだ』

「ふうん」

(複雑……多分、こいつとは生まれも育ちも違うはずなんだけどな)

「この満開の花たちを見たまえよ。ほんのちらりと、雪が舞う程度のことでは、ないよ」


 彼女は小気味よく言った。
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