ガルドラ龍神伝―外伝章―
ロータスが言いかけた時、開錠条件を満たしていないのに、なぜかひとりでに扉が開いた。扉の奥には、ディサオン男爵と執事のトート、手下の魔物達の姿がある。


「良かった。呪文唱えなくて済んで(俺には、あの暗号の意味がさっぱりわからなかったからな)」


ロータスが戸惑っていると、男爵が急かすように声をかける。


「ようこそ、我が館へ。私達一同、あなたが下僕になる決意を下されることを待ち望んでいたのですよ、砂龍王の娘よ」


ディサオン男爵が歓迎の言葉を述べると、突然リタがからからと笑う。


「おやおや、随分なご挨拶だね。でも、勘違いしてもらっちゃ困る。私は確かに砂龍王の娘だけど、それだけで下僕として歓迎してほしくないね。まあ、どういう理由であれ、悪人からの甘い誘いは、お・こ・と・わ・り・さ」


リタは、途中から言葉を一文字ずつ区切りながら言った。


「よく言った。お前も、なかなかやるじゃないか(ていうか、リタがお姫様だなんて、聞いてないぞ。どこの国のお姫様だ)」


ロータスは、本心では戸惑いつつも、リタを軽く褒めた。リタは、男爵に対して質問攻めをする。


「ディサオン男爵、あなたに質問だ。突然私達父娘を襲った、あの人間達は何者なんだ? 後、あなた達が言ってた《Q.A計画》というのは、どういうものなんだ?」


男爵はしばらくの間、沈黙してからまた、口を開く。


「リタ姫、どうやらお前は、私達の正体を既に見破っている様子だな?」


「ああ、見破ってるとも。あなた達、そうやって人間になりすましてるようだけど、本当は魔族なんだろう? 私の勘は誤魔化せないよ!」


「ははは。ばれては仕方がない。いかにも、私はネアントから来た《鬼魔族》だ」


そう言うとディサオン男爵は、自分の魔法を解き、正体を明かす。鬼魔族と名乗るディサオン男爵は、鬼というには程遠く、むしろ吸血鬼に見える。


「我が名は、《水鬼族(すいきぞく)》のディサオン。リタ姫よ、折角お前に偉大なる女王陛下に仕えるチャンスを与えてやったのに」


「何度言われようと、私はアズラ女王には仕えない! もし奴に仕えるくらいなら、死んだ方がマシさ」


「ふふ、良かろう。望み通りに殺してやる。親父と仲良く天界に行くが良い!」


男爵はいきなり、剣に勢いをつけ、リタに向けて振り下ろす。彼女は、それを真剣白刃取りした。


「なかなかの腕だな。お前といい、親父とそっくりだ」


「『親父とそっくりだ』……。あなた、私の父のことを知ってるのか?」


「ああ、もちろん知っているとも。ランディー王子――いや失礼。今は砂龍王だったな。あの王は、かつて私達と共に行動を起こしていたのだよ。アズラ様を無事に即位させるため、邪悪な魔物を倒すという行動をね」
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