きみという馬鹿と苦し紛れの愛は高いところがお好き?
腕時計で時刻を確認する。現在夕方の5時32分。つまり5時34分辺りでマンションの屋上が爆破されるわけだ。
 まいったね、こりゃ。
 
 と、そこでようやく俺は岡野のしようとしていることに考えが至った。
 
「岡野……まさかお前…………跳ぶ気か?」
 
屋上の岡野が頷く気配が携帯と視界から伝わる。
 
「他に被害を抑える方法がないからな」
 
 信じられん。岡野は本物のバカだった。「手で投げろよ」という無理矢理搾りだした俺の意見は軽く却下される。
 
「肩に自信がないし、爆弾がけっこう重い。俺が鞄を抱いたまま跳んだ方が確実だ」
 
「何が確実、だ。爆弾の規模がわからんだろうが」
 
「大丈夫」と岡野が自信ありげに笑う。
 
「今日は30メートルは跳べる気がする」
 
 …………ああーハイハイ。そうですか。そんなにあのイカレタ彼女が好きですか。もう知らん。
 というか俺はバカの自殺ならまだしも英雄の自殺は止められる気がしない。こいつが昔からモテた理由がようやく今、わかった気がする。
 
「……お前の無駄な跳躍力がやっぱり無駄だったことに驚愕を隠せない。命まで無駄にするとはな……見るにたえんバカだ」
 
「無駄じゃないさ」
 
 岡野は気持ちの良い声でハッキリと言った。
 
「無駄じゃない。スーパーボールはスーパーボーイに生まれ変わっていた。そういうことだ」
 
思わず吹き出す。
 
「最後のジョークにしちゃ最悪だ。笑えない上にあんまり上手くない」
 
岡野も笑う。クスクスと笑う。
 
「正直、なかったことにしたい」
 
誰がなかったことにするか。バーカ。
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