なんかをなくしたチルドレンたちへつぐ捧ぐ物語
一
一匹の熊が冬眠に入ったその瞬間、地球は氷河期に突入し、熊がやっと目覚めたのは地球が暖かくなった随分後でした。
熊が地上に出ると、そこに森はなく、新しい国で生きる新しい人の新しい町が栄えていました。
新しい町の新しい人は熊を見て驚きました。そして未だ寝ぼける熊を歓迎しました。熊は大きな欠伸をして言いました。
「やあ、それにしてもお腹が空いた。ハチミツはないかい?」
新しい人は言いました。
「ハチミツなんかないよ。ハチも花も、皆凍って消えちゃった」
熊は哀しみました。
「それは困る。ぼくはハチミツをたっぷりかけたホットケーキしか食べられないんだ」
今度は新しい人が困りました。でも熊が可哀相なので、ホットケーキに偽のハチミツをたっぷりかけて熊に差し出しました。
熊は一口食べて言いました。
「こんなものはハチミツじゃない」
「でもぼくたちはハチミツを知らないんだ。本で読んだだけで、味も匂いもわからない」
熊は肩をおとして言いました。
「じゃあいいよ。ホットケーキだけで我慢するよ。幸運なことに、世界は滅んでも、ホットケーキの味は変わらない」
熊はハチミツをかけないホットケーキを毎日毎日食べ続け、三回目の冬眠の後、二度と目覚めることはありませんでした。
新しい人は哀しみました。そして新しい村の真ん中に立派なお墓をつくって熊を埋めました。
お墓にはこう彫ってありました。
『誰よりもホットケーキを愛する熊、それに気付かずここに眠る』
新しい村を訪ねて来た旅人は、そのお墓を見て尋ねました。
「ねえ、これってほんとの話?」
新しい人は笑いながら言いました。
「ほんとだったら、救いようがありません」
旅人は頷きながら、誰にも気付かれないようにそっと舌打ちをしました。
熊が地上に出ると、そこに森はなく、新しい国で生きる新しい人の新しい町が栄えていました。
新しい町の新しい人は熊を見て驚きました。そして未だ寝ぼける熊を歓迎しました。熊は大きな欠伸をして言いました。
「やあ、それにしてもお腹が空いた。ハチミツはないかい?」
新しい人は言いました。
「ハチミツなんかないよ。ハチも花も、皆凍って消えちゃった」
熊は哀しみました。
「それは困る。ぼくはハチミツをたっぷりかけたホットケーキしか食べられないんだ」
今度は新しい人が困りました。でも熊が可哀相なので、ホットケーキに偽のハチミツをたっぷりかけて熊に差し出しました。
熊は一口食べて言いました。
「こんなものはハチミツじゃない」
「でもぼくたちはハチミツを知らないんだ。本で読んだだけで、味も匂いもわからない」
熊は肩をおとして言いました。
「じゃあいいよ。ホットケーキだけで我慢するよ。幸運なことに、世界は滅んでも、ホットケーキの味は変わらない」
熊はハチミツをかけないホットケーキを毎日毎日食べ続け、三回目の冬眠の後、二度と目覚めることはありませんでした。
新しい人は哀しみました。そして新しい村の真ん中に立派なお墓をつくって熊を埋めました。
お墓にはこう彫ってありました。
『誰よりもホットケーキを愛する熊、それに気付かずここに眠る』
新しい村を訪ねて来た旅人は、そのお墓を見て尋ねました。
「ねえ、これってほんとの話?」
新しい人は笑いながら言いました。
「ほんとだったら、救いようがありません」
旅人は頷きながら、誰にも気付かれないようにそっと舌打ちをしました。