お隣サマ。
「小さい頃から本が大好きだった
もちろんその頃から小説家になるて夢もあったよ
大学を出て俺は作家志望として小説を書き始めたころだった
親父が病気で死んだんだ」
「え……っ」
瀬川真司はもうこの世にいないってこと?
「親父も顔をだしてなかったけど、その道の人たちには有名な人だったから、最初は死んだことを言おうとした
だけど、親父の遺書がそれを止めた
遺書に書かれていたのは財産のことと……瀬川真司のこと
『瀬川真司の名を息子の拓に譲る』ってな感じでね」
そうだったんだ……
会沢さんはお父さんの意志によって瀬川真司になった
瀬川真司として生きることを示されたんだ
「最初は驚いたよ
っていうか、嬉しかったのかも知れないね
俺にとって瀬川真司はファンでもあり、憧れの人だったから
だから俺はこの日から瀬川真司になり、ファンも捨てた」
どこか遠くを見つめる会沢さんの瞳は後悔に揺れているように見えた
「ま、いくらファンを捨てたからって言ったって憧れの人には変わりはないから、俺は親父のミステリーを書こうと努力したよ
そしたら瀬川真司の復帰作第1弾が見事大賞を受賞
あの時は素直に嬉しかったよ
でもその時気づいたんだ
選ばれたのは俺じゃなくて親父なんだって
いくら俺が喜んでも祝福されるのは親父なんだってね」
「そんな……でも執筆したのは会沢さんじゃないですかっ
あたしは会沢さんの作品に惹かれたんです……それなのにそんな言い方……っ」
「ありがとう、ちづるちゃん。
でもね、これが世の中の反応だったんだよ」