スイートルームの許婚
支えを失った私の身体はその場に崩れるようにしゃがみ込んでしまった。



「キス一つで全身の力が抜けるとは…」


私を上から見下ろすように見つめる愛斗の二つの黒い瞳。

私と同じで色っぽく唇は濡れ、光沢を帯びていた。


愛斗は手の甲で濡れた唇を拭う。
その艶のある仕草に私の鼓動は飛び跳ねた。



「俺が欲しいのか?」


「べ、別に…」


「・・・今日はお預けだ」


そんなに私…物欲しそうな目をしてる?


「じゃあなー」


短く手を振って、愛斗は出て行ってしまった。


『お預け』って私はあんたの飼い犬じゃあないんだから・・・

もおっ~心は愛斗の言葉にプリプリしながらも、


指先はキスの余韻の残る熱い唇に触れていた。



< 57 / 289 >

この作品をシェア

pagetop