手を伸ばせば、届く距離まで。



―――…



『天沢(あまさわ)ー』


中学校で、俺は“天沢”だった。


唯一の肉親になった、母親の名字だった。


俺はその名前が、大嫌いだった。


『天沢の母ちゃん、風俗嬢なんだろ!』


『……………』


俺の、恥。


友達なんて出来るわけもなく、独りきりだった。


『…天沢…』


名前を見るたび、俺は俺じゃなくなるみたいだったのだ。



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