手を伸ばせば、届く距離まで。



久野に会ったら、ありがとうって言わないとな。


「…真樹」


「…っ!」


華織に呼ばれて、真樹が緊張に背筋を張った。


華織がどんな顔をしているかは、俺には見えない。


「ありがとう、真樹。あたしも、ちゃんと…好きだったよ」


「………うん」


真樹は、耐えられなくなったように華織に背を向けた。


俺の方に体を倒し、声を押し殺して泣く。


俺は、やっぱり何も言えなかった。


ただ、目の前で泣く真樹を、俺も泣きそうな目で見つめた。



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