手を伸ばせば、届く距離まで。



―――…


「何で帰ってきたんだ」


お茶をも、用意しようと思わない。


それほど目の前の父親は、憎かった。


借金を放り出し、女と逃げ、あんな奴と暮らさせた…。


全部、父さんのせいだ!


―――カチ、カチ…


静かに響く秒針の音。


父さんは、ようやく重い唇を上げた。



「すまなかった」



頭を下げて。



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