そしていつかの記憶より
伺うように部屋に入ってきたのは、ふじ先輩だ。



「あ、まだ歓迎会やってた!・・間に合った、かな・・?」





バイト終わりで走ってきたらしいふじ先輩は、息を整えながら部屋をぐるりと見渡す。
ふじ先輩は正直 幸薄い顔をしているけど、行動や言動からなんとなく爽やかな印象を与えてくれる。



「ふじ先輩!良かった。加奈先輩起きないんですけど」
「あー・・・俺が家まで連れて帰るよ。悪いんだけど、誰かこの部屋片付けてくれると助かるかも」


よっと、とふじ先輩が加奈先輩をおぶって、部室から去っていく。
ふじ先輩はやっぱり、加奈先輩のお守り役だなぁ、なんてどうでもいいことを考えてたりして。






「あ・・・アタシもそろそろ帰んないと。弟たちのご飯作らないといけなかったんだ」



陽子は年の離れた弟が居て、両親が共働きなのでよく面倒を見ている。






「そっか、私片付けしておくから、早く帰ってあげて?」
「うん、ごめん・・・ありがと!」


陽子も荷物をまとめて帰っていく。



「あー・・・悪いな、俺もバイトでさぁ。・・・そうだ、いっちゃん、のっちぃの家分かる?送ってってあげないと・・」
「え、あ・・・わ、分かるよ・・結構近いから歩いていけると思う。地図、これ」

私は携帯で地図を出しながら説明する。
そして、ささくんも、乃架ちゃんをおぶって帰って行った。




・・・残ったのは、私と、木原くんだ。







「えっと・・・片付けよっか」



私がそういうと、木原くんは私の顔もみずに、ああ、と一言言って作業に取り掛かる。
私も余計なことは言わずに片付けていく。




(・・・乃架ちゃん、羨ましいな・・)





さっきおぶってもらっていた乃架ちゃんを思い出す。
すると、胸がちくりと痛む。




(・・・ささ、くん)





ささくんの屈託のない笑顔を思い出す。
大学に復帰してから、あの笑顔にどれだけ救われたか。










・・彼はきっと知らないんだろう。




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