そしていつかの記憶より
「ねーちゃん、ありがとー。」
「いえいえ。」


智也が嬉しそうに、アタシ達に駆け寄った。
今は5時間目の授業が終わったところらしい。


「雨の中走って帰るとこだったぜ!それもそれでクールでいいと思ったけどな!」
「はぁ、そう・・」



智也は傘を受け取って、それを剣に見立てながら言う。



「文人も来てくれてありがとー!」
「ああ。近く寄っただけだから気にすんな」
「おうっ!」

智也は、憧れの木原に会えたからなのか、いつもよりテンションが高めだった。
木原はそれを知ってか知らずか、笑顔を見せる。




(いつかと子供には笑うのね・・・)





「じゃ、アタシたちもう行くから」
「おうっ」


小学校を出ると、まだ雨が小雨で降っている。
下には水溜りが出来ていて、歩くたびに水がはねる。




「俺んち近くだから、ここまででいい」



ふいに、木原が傘の中から離れた。



「あ・・・、・・そう、なんだ」
「おう。サンキューな、桜井」


何でだろう。
少し離れるだけで、不安になる。



木原はアタシの彼氏でも何でもない。・・・親友の、昔好きだった人なのに。




「どうした桜井?元気ねーぞ。」



木原は、アタシの顔を覗き込む。
やめてよ、そんな顔するの。






アタシ、アンタが・・・






「・・・木原」
「ん?」



覗き込む木原に、
──アタシは不意にキスをした。




「・・・っ!?」




木原は、驚いた顔をして、アタシを見る。



「じゃあねっ」




アタシは、雨のはねる中を走って帰っていった。
触れた唇が燃えそうなくらい熱い。









アタシ、──アンタが、好きなんだ。
< 44 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop