寄り道アバンチュール
平静を保てなくなっていく私を愉快そうに見やりながら彼の両手は更に背中に回って私を抱き込むように引き寄せた。
言うなればパンツ一丁の先輩から生々しい体温が伝わる。
硬い腰回りに「腹筋凄そう」とぼんやり思った。
それでも一瞬の現実逃避からすぐに帰還すると、
靴下越し、カーペットの床にしがみつくように足の指に力を入れてささやかな抵抗を試みながら言葉をどう続けようかと迷う。
宮本先輩とは写真サークルがきっかけで知り合った。
…といってもたまの飲み会で顔を合わせては短い挨拶を交わしてそれぞれ友人の元へ座るような間柄で、二人きりでは会話という会話をしたことないのが事実だ。
なんでソレがああなってこうなったのかさっぱり分からない。
「…もしかして覚えてないのか?」
強張った私の体に「図星か」と先輩は一瞬悲しそうな顔を見せた気がしたけど、次にはにやりと口角を上げた。
「そうか、残念だな」
ちっとも残念そうじゃない表情で唇を首筋に寄せるとちゅっと音を立ててキスを落とす。
「…宮本先輩本当どうしちゃったんですか」
一番驚いたのは自分の隣に寝ていた男が宮本先輩だったからじゃない。
私の知る限り先輩はこんな挑発するような、露骨に昨日の行為を示すような、いわば変態っぽいセリフを吐いたりしない。
無口で感情表現は薄い、一見無愛想な人だけど、後輩にも同級生にも頼られる硬派なしっかり者ってイメージだったし、先輩の追っかけな友人たちからもそう聞いていた。
「なんか…先輩じゃないみたいです」
「そりゃ滝沢によく見られたくて色々抑えてたからな」
先輩らしい落ち着きのある声に先輩らしさのかけらもない言葉。
「その甲斐あって滝沢、俺に悪い印象はないだろ?」
褒めて褒めてと言わんばかりに首筋に顔を擦り寄せる先輩に私の頭はますます混乱した。