寄り道アバンチュール
道くさ 2
「チョコレート頂戴」
「…は?」
アパートに着いてポスト中を確認していると、いつの間にか隣に立っていた、寝起きかと思うほどボサっとした出で立ちの男が片手を私に突き出した。
「チョコ、義理でいいから」
「萩原さん今日はバレンタインじゃないんですよ。なんならホワイトデーすら1ヶ月くらい前に過ぎてるんですよ」
「いつからこの国の女の子はバレンタインにしか男にチョコをあげなくなっちゃったの…」
深い溜め息をわざとらしく吐く彼は面倒臭さにおいては宮本先輩を軽く凌駕すると思う。
ポストに溜まっていたチラシや手紙累々を取り出しながら視線をもう一度男に向けて上から下までゆっくり観察した。
パジャマともスエットとも見れる格好、裸足につっかけ、パーマなんだか寝ぐせなんだか分からない無造作な黒髪。
それは私が住むこのアパートの管理人の、いつも通りの恰好だった。
無精鬚が生えていないのが幸いか、顔立ちそのものはなかなか整っているのが決め手か、その無気力な恰好にみすぼらしさはない。
ただその顔立ちからするにせいぜい私より2、3歳上ってところだろうから、もっと活気に満ち溢れる、年相応の恰好をすればいいのにといつも思う。